予算ゼロから日本の7都市でウクライナ映画フェスティバルを開催するまで

予算ゼロから日本の7都市でウクライナ映画フェスティバルを開催するまで

2026 11 6

2026年10月15日~11月29日の間、日本各地の7都市にてウクライナ映画フェスティバルが開催されています。範囲・規模ともにとても大きなイベントです。この映画フェスティバルのプログラムには12本の映画が予定されており、その中には現代のフィクション作品だけでなく、ドキュメンタリー映画も含まれています。ちなみに、その中にはUkraїner / ウクライナー制作のドキュメンタリー映画である「マランカとクリスマス」も予定されています。

ライター
クカー・ダリナ, 日本語版コーディネーター

このフェスティバルは、すべてボランティアによる運営と寄付金によって成り立っており、全上映は無料で開催されています。

現時点で、フェスティバルの主なプログラムはすでに終了しています。横浜、東京、京都での開催初日、約900人の観客が上映会を訪れました。また、神戸と大阪でも上映会が行われました。仙台と浦安での上映会でも予定されています。

私たちは、フェスティバルの主催者や登壇者たちに、イベントの企画について、日本の人たちの反応、そしてウクライナと日本にとってのこのイベントが持つ意義について話を伺いました。

「セコンド・ウインド」上映の様子(写真:オレーナ・クシュナリョヴァ氏)

「セコンド・ウインド」上映の様子(写真:オレーナ・クシュナリョヴァ氏)

ダリア・パンチュク氏:「映画フェスティバルを無料で開催することが私たちの考えでした」

きっかけは在日本ウクライナ大使館での映画クラブでした。この映画クラブのオーガナイザーで、現在はウクライナ映画フェスティバルのプログラムコーディネーターであるダリア・パンチュク氏は、ウクライナ映画への造詣が深く、ウクライナ映画をより多くの人たちに届けたいと思っていました。毎回数十人規模での上映会を毎月行っていました。しかしながら、上映を行うためのスペースが小さすぎるため、より多くの人たちが映画を視聴する事ができるスペースでの上映会を行いたいとパンチュク氏は思っていました。そして、映画フェスティバルというアイディアが生まれたのです。

ウクライナ映画フェスティバルのプログラムコーディネーターであるダリア・パンチュク氏とウクライナ文化センター副理事長のインナ・イリナ氏(写真:オレーナ・クシュナリョヴァ氏)

ウクライナ映画フェスティバルのプログラムコーディネーターであるダリア・パンチュク氏とウクライナ文化センター副理事長のインナ・イリナ氏(写真:オレーナ・クシュナリョヴァ氏)

2026年1月にウクライナ映画フェスティバルのプロジェクトは動き出しました。ダリアさんは準備を進め、上映会のための映画としてリストアップするためにウクライナの映画を次々と視聴していきました。ウクライナ及び海外で既に人気となっている現代映画が上映会のための映画として選ばれました。「セコンド・ウインド」「パラヌィッチャ」「地下に芽吹く庭」「ファミリー・アルバム」といった、ロシアによるウクライナに対する全面侵略が開始されて以降撮影されたドキュメンタリー映画だけでなく、「わが思いは静か」「クリミアの祈り」といったフィクション作品も選ばれました。日本のウクライナ人コミュニティは、「ユー・アー・ザ・ユニバース」というウクライナでとても人気となった作品を心待ちにしていました。日本ではこの映画が上映されていなかったからです。

京都でのウクライナ映画フェスティバルで公開された映画(写真:ZenGroup、アンドリー・マフディチ氏)

京都でのウクライナ映画フェスティバルで公開された映画(写真:ZenGroup、アンドリー・マフディチ氏)

ウクライナで制作された映画以外にも、山田あかね監督の「犬と戦争」という日本のドキュメンタリー映画も今回の映画フェスティバルに選ばれました。この映画の素材は、全面侵略が始まってから最初の2年の間にウクライナで撮影されました。

「それから、私たちはチームを編成し始めました。」

このイベントの予算は当初ありませんでした。主催者たちは、以前から映画クラブに通っていた人たちのコミュニティに対して、サポートの呼びかけを行うことにしました。その結果、上映権の購入など、初期費用を賄うための最初の寄付や支援者を呼び込むことにつながりました。

このプロジェクトには、友好団体やボランティアが参加しました。その中には、数年にわたり日本でウクライナ文化の普及活動を行っている「Ukraine House Japan」や、ボランティアによるNGO団体「Stand with Ukraine Japan」も加わっています。また、大使館や日本全国のウクライナ人団体からも協力が得られました。このような団体の代表者たちによってチームが結成され、空いている時間をボランティアとして活用し、SNSの運営、字幕の翻訳、写真撮影、物流など、さまざまな業務を担当しました。

ウクライナ映画フェスティバルに参加しているボランティアの方々(写真:オレーナ・クシュナリョヴァ氏)

ウクライナ映画フェスティバルに参加しているボランティアの方々(写真:オレーナ・クシュナリョヴァ氏)

東京での「セコンド・ウインド」上映の様子(写真:オレーナ・クシュナリョヴァ氏)

東京での「セコンド・ウインド」上映の様子(写真:オレーナ・クシュナリョヴァ氏)

パートナー、各地域、配給業者とのコミュニケーションは、重要なステップ

ダリアさんによると、上映会場はコンセプトに合わせて選定されたそうです。歴史映画や芸術映画の上映には、それにふさわしい文化施設や博物館のスペースが選ばれました。例えば、京都文化博物館の映画館では、ウクライナの冬の伝統を描いたドキュメンタリー映画「マランカとクリスマス」や、ホロドモールの歴史を調査した「ファミリー・アルバム」が上映されました。協力関係や合意のおかげで、多くの会場を好条件で確保することができました。

上映権を取得するために、ウクライナおよび海外の配給業者やプロデューサーとの交渉も進められました。映画製作に関わった人々の一部はこの取り組みを支持し、啓蒙活動の一環として上映を許可してくれました。中には、自ら現地を訪れて映画を紹介してくれた人もいました。その詳細については、後ほどご紹介します。

全12作品に日本語字幕が作成された

字幕作業は、それ自体がもう一つの重要な取り組みでした。通常、映画にはすでに英語の字幕が付けられています。しかし、日本語字幕を新たに作成するには、多大な労力と時間を要します。ここでは、日本人ボランティアや 一般社団法人日本ウクライナパートナーシップ協会が協力しました。

ただ映画を上映するだけでなく、補足のための関連情報も提供する

映画鑑賞に加えて日本のみなさんがウクライナ文化についてより深く理解できるよう、ディスカッションや映画専門家の参加もプログラムに組み込みまれました。

戦争退役軍人たちがキリマンジャロ山に登頂する様子を描いた映画「セコンド・ウインド」のディスカッションには、マリヤ・コンダコヴァ監督とプロデューサーであるヘンナーディー・ハジン氏に加え、映画の主人公であるオリハ・イェホロヴァ氏(コールサイン「ヴィソタ」)とヴラディスラウ・シャティロ氏(コールサイン「シャチャ」)も参加しました。映画フェスティバルで上映された2本目の映画となったアフテム・セイタブライェウ監督の「クリミアの祈り」の上映に先立ち、ウクライナの音楽家であるフリブ・トルマチョウ氏とオレクサンドラ・ホルブリョヴァ氏が、チェロとヴァイオリンでクリミア・タタール人の楽曲を演奏しました。映画「ファミリー・アルバム」の上映後、京都にて、1932年から1933年にかけてのウクライナにおけるホロドモールに関する講演が歴史家の上西豊氏によって行われました。

「セコンド・ウインド」に関するディスカッションの様子(写真:オレーナ・クシュナリョヴァ氏)

「セコンド・ウインド」に関するディスカッションの様子(写真:オレーナ・クシュナリョヴァ氏)

「大変豊かなウクライナ映画を知ることができる映画フェスティバル」

筑波大学の梶山祐治教授もウクライナ映画フェスティバルの登壇者の一人です。梶山氏はウクライナ映画に非常に詳しく、1920年代以降のウクライナ映画を網羅した書籍も出版しています。

梶山氏による講演の様子(写真:ダリナ・クカー)

梶山氏による講演の様子(写真:ダリナ・クカー)

今回、梶山氏は映画「わが思いは静か」の文化的背景に関する講演を行いました。「初めてこの映画を見たときにとても驚きました。このようなウクライナ映画が出てきたっていうのに大変驚いて、今までなかったタイプの映画だったのです。監督もまだ20代と若かったので[…]」と、この映画に関する感想を梶山氏は述べています。

「ウクライナ映画にはすごく長い歴史があります。本当に100年以上の歴史があって[…]昔から素晴らしい作品がたくさん制作されているのですが[…]今回の映画フェスティバルは戦争映画だけではなくて、ウクライナのいろいろな側面を紹介するのというのがポイントだと思います[…]ですので、これは大変豊かなウクライナ映画を知ることができる映画フェスティバルだと思います。」

「[…]両映画とも本当に素晴らしく[…]私にとっては一つの詩のようで[…]強烈なメタファーです」

専修大学国際コミュニケーション学部特任教授の原田義也氏も、パウロ・オストリコウ監督の映画「ユー・アー・ザ・ユニバース」の上映後に講演を行いました。原田氏は、近現代ウクライナ文学を専門としています。

原田氏による講演の様子(写真:ダリア・パンチュク氏)

原田氏による講演の様子(写真:ダリア・パンチュク氏)

パウロ・オストリコウ監督の映画について、原田氏は次のように言及しています:「私たちが限られた自分の命をどのように生きるか、何のために生きるかという強烈なメタファーになっていまして[…]もちろん今、戦場のウクライナで生きる人たちにとっても切実だしであり、また、私たちにとっても非常に切実なテーマでもあります。」

原田氏は、マリヤ・コンダコヴァ監督の映画「セコンド・ウインド」についてもコメントしています。この映画が日本にとっても非常に重要であると、原田氏は考えています。なぜなら、人生の意義を探求することや、依存や困難を克服することは、痛みや絶望を感じている人々にとって「大きな光」となり得るからからです。

2026年のウクライナ映画フェスティバルは、始まりに過ぎない

映画フェスティバルに観に来てくれた人たちが少しずつ上映会場から出ていき、上映会への感謝を伝え、椅子の整理や機材の片付けが行われています。そして、プログラムコーディネーターのダリアさんは、このイベントのために誰かが持ってきてくれた花を束ねています。イベントの開幕に大きな鉢植えの花を贈るのは、日本での伝統です。会場の明かりが消え、東京での映画祭は幕を閉じました。他の都市でも上映が予定されています。今後、さらに多くの日本の人たちがウクライナの映画を知るようになるでしょう。ウクライナの映画は興味深く、さまざまな魅力を秘めており、世界中の人々の心に響く力を持っています。もしかしたら、来年もこの映画フェスティバルが開催されるかもしれません。

映画フェスティバルの映画リスト:

  1. セコンド・ウインド
    ウクライナ語名:Друге дихання
    監督:マリヤ・コンダコヴァ(Марія Кондакова)
  2. クリミアの祈り
    ウクライナ語名:Чужа молитва
    監督:アフテム・セイタブライェウ(Ахтем Сеітаблаєв)
  3. わが思いは静か
    ウクライナ語名:Мої думки тихі
    監督:アントニオ・ルキッチ(Марина Ткачук)
  4. ファミリー・アルバム
    ウクライナ語名:Сімейний альбом
    監督:マリーナ・トカチュク(Марина Ткачук)
  5. ユー・アー・ザ・ユニバース
    ウクライナ語名:Ти – Космос
    監督:パウロ・オストリコウ(Павло Остріков)
  6. パラヌィッチャ
    ウクライナ語名:Паляниця
    監督:カディム・タラソウ、ユリヤ・ボリシンシカ(Кадім Тарасов, Юлія Большинська)
  7. マランカとクリスマス
    ウクライナ語名:Маланка та Різдво
    監督:ミコラ・ノソク(Микола Носок)
  8. 地下に芽吹く庭
    ウクライナ語名:Підземний сад
    監督:ユリアン・ウリビン(Юліан Улибін)
    ※特別上映
  9. ハネムーン
    ウクライナ語名:Медовий місяць
    監督:ジャンナ・オジルナ(Жанна Озірна)
  10. 戦時下の動物たち
    ウクライナ語名:Війна очима тварин
    さまざまな監督による短編映画作品集
  11. 犬と戦争
    ウクライナ語名:Собаки та війна
    監督:山田あかね
  12. ぼくらは消えない
    ウクライナ語名:Ми не згаснемо
    監督:アリサ・コヴァレンコ
    ※特別上映
コンテンツ作成スタッフ

企画,

写真編集,

インタビュアー:

クカー・ダリナ

翻訳:

藤田勝利

フォトグラファー:

オレーナ・クシュナリョヴァ

アンドリー・マフディチ

コンテンツマネージャー:

カテリーナ・ユゼフィク

グラフィックデザイナー:

アンナ・ドマンスカ

Ukraїner Internationalのコンテンツ責任者:

ジョン・ゴンザレス

Ukraїner Internationalオペレーションマネージャー:

イリーナ・ステパニャク

Ukraїner International編集長:

クリストファー・アトウッド

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